朝起きたら鼻が詰まっていて口呼吸になっている。頬や額が重くて圧迫感がある。鼻水が喉に落ちてきて常に違和感がある。風邪は治ったはずなのに鼻症状だけがいつまでも残る──副鼻腔炎を抱えている方からは、こうしたお悩みをよくお聞きします。

副鼻腔炎は耳鼻科で薬や鼻洗浄を続けてもなかなかすっきり治らず、慢性化して蓄膿症と呼ばれる状態にまで進んでしまうこともあります。手術以外の選択肢を探している方、薬を飲み続けることに不安を感じている方、花粉症と併発して毎年つらい思いをされている方に、鍼灸という選択肢があります。今回は副鼻腔炎に対する鍼灸のアプローチと、よく用いられる経穴(ツボ)について記しました。

副鼻腔炎とはどういう状態か

副鼻腔は、鼻の周りにある4対8つの空洞のことを指します。頬の奥にある上顎洞、目と目の間にある篩骨洞、額の奥にある前頭洞、鼻の奥深くにある蝶形骨洞──これらが鼻腔と細い穴でつながり、本来は粘液を通して空気の浄化や鼻腔内の湿度調整を担っています。

風邪やアレルギーをきっかけに鼻腔の粘膜が炎症を起こし、それが副鼻腔の粘膜にまで広がった状態が副鼻腔炎です。炎症で粘膜が腫れて副鼻腔と鼻腔をつなぐ穴が塞がると、副鼻腔の中に粘液や膿がたまり、症状が悪化していきます。3ヶ月以上続くものは慢性副鼻腔炎(蓄膿症)と呼ばれ、難治化しやすいのが特徴です。

近年は花粉症やアレルギー性鼻炎の増加に伴い、副鼻腔炎を併発する方も増えています。「毎年花粉のシーズンに副鼻腔炎まで悪化する」「風邪を引くたびに鼻症状が長引く」といった方は、慢性化のリスクが高い状態と言えます。

よく現れる症状

副鼻腔炎では次のような症状が現れます。

鼻づまりや粘り気のある鼻水、黄色や緑がかったドロッとした鼻汁、鼻水が喉の奥に落ちる後鼻漏、頬や額の痛み・圧迫感、頭痛や頭重感、嗅覚の低下、口呼吸による喉の乾燥や違和感、集中力の低下、睡眠の質の低下。

中でも後鼻漏頭重感は、慢性副鼻腔炎の方を長く悩ませる症状です。「常に喉に何か絡んでいる感じがする」「頭が重くてぼーっとする」といった訴えは多く、仕事や日常生活への影響も小さくありません。

鍼灸が副鼻腔炎に働きかける仕組み

鍼灸が副鼻腔炎に対してどう作用するのか、いくつかの経路があります。

血流の促進──鍼やお灸の刺激によって副鼻腔周囲の血流が増加します。炎症を起こしている粘膜に酸素と栄養が届くようになり、たまっていた膿や粘液の排出が促されます。施術中や施術後に「鼻水がスッと出てきた」「鼻が通った」と感じる方が多いのは、この血流改善の効果によるものです。

炎症の抑制──鍼刺激には抗炎症作用があることが研究でも示されており、副鼻腔粘膜の炎症を鎮める働きが期待されます。海外の医学雑誌にも、鍼刺激が鼻腔の通気性を高めることを示した報告があります。

自律神経の調整──慢性副鼻腔炎の方は、症状の長期化により交感神経が高ぶりがちで、回復力が落ちています。鍼灸は自律神経のバランスを整え、副交感神経を優位にすることで、身体が本来持っている治る力を引き出します。

免疫機能のサポート──風邪を引きやすい体質、アレルギーを持っている方は、副鼻腔炎を繰り返しやすい傾向があります。全身の経穴に働きかけて気血のバランスを整えることで、再発しにくい体質づくりを支えていきます。

首肩の緊張の緩和──鼻づまりで口呼吸になると、首や肩の筋肉が知らず知らずのうちに緊張します。この緊張が頭部への血流をさらに悪くするという悪循環が生まれます。鍼灸で首肩の緊張をゆるめることは、鼻症状そのものへのアプローチとしても重要です。

副鼻腔炎を楽にする首の経穴(ツボ)

副鼻腔炎のセルフケアで意外と見落とされがちなのが、首の後ろの経穴です。鼻の症状なのに首?と思われるかもしれませんが、首の後ろには鼻症状に効く重要な経穴がいくつもあります。鼻づまりで頭部の血流が悪くなっている方ほど、首の経穴の働きが大切になります。

風池(ふうち)は、後頭部の生え際、首の太い筋肉(僧帽筋)の外側にあるくぼみです。耳の後ろから後頭部に向かって指をなで上げていくと、髪の生え際あたりに大きなくぼみが見つかります。鼻の通りを良くする代表的な経穴で、風邪の特効穴としても古くから用いられてきました。両手の親指を風池にあてて頭の中心に向かって押し、3秒押して3秒離すを5〜10回繰り返します。

天柱(てんちゅう)は、風池より少し内側、首の後ろの太い筋肉の外側にあります。鼻症状はもちろん、目や耳など頭部のあらゆる症状に効くと言われ、押すと首肩のこりがほぐれてリラックス効果も得られます。風池と天柱を交互に押すと、頭部全体の血流が整いやすくなります。

完骨(かんこつ)は、耳の後ろの骨(乳様突起)の下のくぼみにあります。耳たぶの裏側を後ろにたどっていくと、骨の下にくぼみが見つかります。鼻の通りや頭重感、耳の症状にも用いられる経穴です。

大椎(だいつい)は、首を前に倒したときに最も飛び出す骨(第7頚椎棘突起)のすぐ下のくぼみです。鼻炎・鼻づまりに古くから用いられる特効穴で、免疫力を整える経穴としても知られます。

これら首の経穴は、ご自身では押しにくい場所にあることもあり、しっかり効かせたい方は鍼灸での施術がおすすめです。鍼やお灸を組み合わせて深く働きかけることで、セルフケアでは届かない深部までアプローチできます。

顔の経穴(ツボ)で鼻の通りを取り戻す

顔の経穴は鼻症状に直接働きかけるため、効果を実感しやすい部位です。

迎香(げいこう)は、小鼻のすぐ両脇のくぼみにあります。「香りを迎える」という名前の通り、鼻の通りを良くする代表的な経穴です。中指の腹を当てて、鼻の中心に向かってゆっくり押します。

印堂(いんどう)は、眉間の中央にあるくぼみです。蓄膿症や鼻づまり、眉間の重だるさに用いられます。中指で優しく押し回すと、額の重さがふっと軽くなる感覚があります。

上星(じょうせい)は、額の中央、髪の生え際から指1本分上にあります。鼻の通りや前頭部の頭痛、鼻水・鼻血にも用いられる経穴です。

攅竹(さんちく)は眉頭のくぼみ、巨髎(こりょう)は黒目の真下で鼻翼の高さの位置にあります。攅竹は副鼻腔の通りを整え、巨髎は上顎洞(頬の奥)の症状に対応します。

これらの顔の経穴は、強く押しすぎないことが大切です。皮膚が薄くデリケートな部位なので、痛気持ちいい程度の力でゆっくりと刺激します。

手足の経穴(ツボ)

顔から離れた手足にも、副鼻腔炎に効く重要な経穴があります。

合谷(ごうこく)は、手の甲の親指と人差し指の付け根のくぼみにあります。「面目合谷に収む」と言われ、顔や頭部の症状に広く用いられる万能穴です。鼻症状はもちろん、頭痛や歯痛、目の疲れにも作用します。反対の手の親指で、骨の際に向かってグッと押し込むように刺激します。

列缺(れっけつ)は、手首の親指側にある経穴で、肺経に属します。東洋医学で鼻と関係が深いとされる「肺」の働きを整え、鼻症状全般に用いられます。

足三里(あしさんり)は、膝のお皿の下、外側のくぼみから指4本分下にあります。全身の気血を補い免疫力を整える代表的な養生穴で、副鼻腔炎を繰り返さない体質づくりに役立ちます。

東洋医学から見た副鼻腔炎

東洋医学では、副鼻腔炎を「肺」と「脾」の働きの乱れとして捉えます。

「鼻は肺の窓」と言われるように、東洋医学では鼻と肺は深くつながっています。肺の働きが弱ると鼻の症状が出やすくなり、風邪(風寒・風熱)といった外邪が肺を傷めることで急性副鼻腔炎が起こると考えられています。

慢性化した副鼻腔炎にはの働きも大きく関わります。脾は消化吸収を担うとともに水分代謝にも関わる臓で、脾が弱ると体内に余分な水分(湿)がたまります。それが粘り気のある鼻水や後鼻漏として現れるのです。甘いものや脂っこいものの摂りすぎ、冷たい飲食物の習慣は脾を弱らせ、副鼻腔炎を慢性化させやすくします。

経絡治療では、急性期には肺の経絡を整えて外邪を追い出し、慢性化した状態には脾と肺の両方を補いながら気血のバランスを取り戻していきます。鼻だけを診るのではなく、全身の状態を見極めて根本から整えるのが東洋医学のアプローチです。

副鼻腔炎と鍼灸でできること

はりきゅうはれ梅島院では、脉診流経絡治療に基づいて、副鼻腔炎の状態と身体全体のバランスを見極めたうえで施術を組み立てています。鼻まわりの局所だけでなく、首肩の緊張・自律神経の状態・体質的な傾向まで含めて整えることで、症状の改善と再発予防の両方を目指します。

薬を飲み続けても改善しない、何度も再発する、手術を勧められたが他の選択肢を探したい、花粉症シーズンになると副鼻腔炎まで悪化する──そうしたお悩みをお持ちの方に、副鼻腔炎と鍼灸について記しました。鼻づまり・後鼻漏・顔の重だるさといった慢性的な不快感に、東洋医学の視点からアプローチしていきます。

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