月経は毎月同じことの繰り返しに見えて、実は身体の中で大きな波が起きています。痛い日も、気分が沈む日も、やけに眠い日もある——けれどそれは、身体が一ヶ月のなかで満ち引きを繰り返しているサインでもあります。すべてを不調と決めつける必要はありませんが、つらさを我慢する必要もありません。
生理痛、PMS、排卵期の違和感、生理後のだるさ、月経不順——月経周期に合わせて起こるこうした波を、東洋医学と鍼灸では「気血と陰陽が満ち引きする、毎月の小さな四季」として読んできました。この記事では、足立区梅島・はりきゅうはれ梅島院から、月経周期を東洋医学の視点でどう捉え、それぞれの時期にどう過ごすとよいかをお伝えします。
なお、女性の身体を生涯のスケールで読む女性の7年周期というコラムもあります。あちらが人生の大きな波、こちらは毎月めぐる小さな波の話です。
月経周期という、毎月の波
現代医学では、月経周期を、出血する月経期、卵胞が育つ卵胞期、排卵が起こる排卵期、排卵後の黄体期の四つに分けます。日本産婦人科医会では、正常な月経周期の目安を25〜38日としていますが、この範囲に収まっていれば何も気にしなくてよいわけではありません。痛み、気分の波、出血量、眠りの質——周期のなかで身体が出すサインは人によって変わります。
東洋医学は、この移り変わりを「陰陽の消長」として読みます。何かが満ちて、溢れて、また蓄えられ、切り替わる。ホルモンの数値ではなく「気血がどの方向へ動き、何が満ち、どこで転じるか」という流れとして月経を見るのが、東洋医学らしい捉え方です。
月経を支える三つの臓 — 肝・脾・腎
月経の波を読むうえで、東洋医学が特に重視するのが「肝・脾・腎」という三つの臓です。西洋医学の臓器とは異なる、機能のまとまりとしての概念で、この三つが支え合って毎月のリズムをつくっています。
腎は、月経の土台です。成長・生殖・老化を司る根本の力が腎に宿るとされ、その充実とともに「天癸(てんき)」という働きが現れて月経が始まると考えます。初経も閉経も、この腎の力の移り変わりとして読みます。月経を支える奇経である衝脈・任脈も、腎を根として働きます。
脾は、月経の材料をつくる臓です。飲食物から気血を生み出す「後天の本」とされ、毎月の経血のもとを日々の食事から用意します。血が漏れ出ないよう留める「統血」の働きもあり、経血量や出血の安定に関わります。
肝は、血を蓄え、巡りを調える臓です。血を貯蔵して必要なときに送り出す「蔵血」と、気をのびやかに巡らせる「疏泄(そせつ)」を担います。月経のリズムも情緒の安定も、この肝の働きと深く関わります。
腎が土台を支え、脾が材料をつくり、肝がそれを巡らせる——この連携で、月経という毎月の波が成り立っています。
月経期(生理中・行経期)—「出す」時期
月経が始まると、肝が蓄えてきた血が下り、気血は下へ向かいます。血の動きが大きく、冷えや巡りの滞りの影響が出やすい時期です。
経血が暗く塊が多い、刺すような痛みがあるときは、血の巡りが滞った状態として読みます。色が薄く量が少なめで疲れやすいときは、脾がつくる血の不足として捉えます。この時期は活動量を上げるより、温かさと休息を大切にしたいタイミング。下腹部・腰・足首を冷やさず、冷たい飲み物や生ものを控え、経血量が多い日は予定を詰めすぎないことが養生になります。
強い月経痛が毎回ある方は生理痛と鍼灸、冷えが重なる方は冷え性と生理痛の記事もどうぞ。
卵胞期(生理後・経後期)—「蓄える」時期
血を出したあとは、身体の「血の蓄え」が空きやすい時期です。脾が材料をつくり、肝が血を蓄え、腎が支える——三つの臓が次の準備を進めます。
ここで無理を重ねると、疲れやすさ、立ちくらみ、眠りの浅さ、目の疲れ、肌や髪の乾きが出やすくなります。経血量が少なめの方、ダイエット中の方、睡眠を削りがちな方は、この「蓄える力」が追いつきにくい傾向があります。睡眠時間を削らないこと、たんぱく質や鉄分・温かい汁物で「材料」を補う発想を持つこと、激しい運動より歩く・伸ばす程度から始めることが養生です。眠りの浅さが続く方は不眠と月経周期の記事もどうぞ。
排卵期(経間期)—「切り替わる」時期
蓄えた陰が満ちると、身体は陽へと転じます。この切り替わりで大切なのが、肝による気の巡りです。ストレスや緊張で肝の巡りが滞っていると、下腹部の片側の違和感、胸の張り、気分の揺れ、おりものの変化として出やすくなります。
適度に身体を動かして気の巡りを助けること、予定を詰めすぎないこと、下腹部を冷やさないことを意識します。気を張り続ける日々が続くと、この切り替えのつまずきが次の経前期の不調にもつながります。
黄体期(生理前・経前期)—「巡らせる」時期
排卵を過ぎると陽気が高まり、次の月経に向けて気血が満ちていきます。多くの方が不調を感じやすい時期です。
この時期は肝の気が滞りやすく、イライラ、落ち込み、胸や下腹部の張りとして現れます。また脾が弱っていたり水分が滞っていたりすると、むくみ、眠気、頭の重さ、甘いものへの欲求として出ます。PMSとして知られる不調の多くは、この肝と脾のめぐりの詰まりとして読めます。睡眠不足と過密スケジュールを避け、強い我慢をため込まず、軽い散歩・入浴・胸を開く呼吸で気の巡りを助けること。冷たいもの・甘いもの・脂っこいものの食べすぎは控えめにしたい時期です。
経前のイライラや落ち込みが強い方は自律神経の乱れとPMS、むくみや重だるさが強い方は梅雨と東洋医学も参考になります。
周期が乱れたときと、ライフステージ
周期が短い・長い・不規則なときも、東洋医学は肝・脾・腎のどこが揺らいでいるかのサインとして読みます。短めなら熱や脾の留める力、長めなら血の材料不足や腎の弱り・冷え、不規則なら肝の巡りの不安定さ、といった見方です。年代による変化も、腎の力の移り変わりとして捉えます。
ただし、3か月以上月経がない、不正出血が続く、出血量が急に増えた、強い下腹部痛や発熱を伴う、月経痛が年々強くなる、閉経前後の不正出血、妊娠の可能性、経前の落ち込みや不安が強く生活に支障がある——こうした場合は、まず婦人科などでの確認を優先してください。子宮筋腫や子宮内膜症、甲状腺の不調が背景にあることもあります。更年期の変化が気になる方は更年期と月経周期の変化、汗やのぼせ・冷えと心腎のつながりはハブコラム汗は心の液、冷えは腎の声もどうぞ。
鍼灸でできること
鍼灸が月経周期に対してできるのは、症状だけを追いかけることではなく、肝・脾・腎のどこで身体がつまずきやすいかを読み、気血のバランスを整えていくことです。
月経痛やPMSに対する鍼灸の研究は蓄積されつつありますが、研究の質にばらつきがあり、標準的な医療の代わりになるものではありません。鍼灸が役立つのは、痛い時期だけを切り取るのではなく、それぞれの時期の身体の状態を、冷え・睡眠・ストレス・食事とあわせて読み、めぐりやすい身体に整えていく関わり方です。足立区梅島のはりきゅうはれ梅島院では、その方の脉、お腹の状態、冷え、睡眠、月経の様子などを丁寧にうかがいながら、脉診流経絡治療の文脈で身体を読んでいきます。
月経周期の見立てで参考にされる経穴(ツボ)
東洋医学的な見立てから、肝・脾・腎の働きを支えるために用いられる代表的な経穴を紹介します。
- 三陰交(さんいんこう):内くるぶしの上、指4本分。肝・脾・腎の三つの経が交わる、婦人科の代表的な経穴。
- 血海(けっかい):膝の内側上方、指3本分。その名のとおり血のめぐりに関わり、月経期や経後期に。
- 太衝(たいしょう):足の甲、親指と人差し指の骨が交わる手前。肝の気の巡りを助け、経前の張りやイライラに。
- 太渓(たいけい):内くるぶしとアキレス腱の間。腎の土台を支え、冷えや慢性的な疲れ、周期の乱れに。
- 関元(かんげん):おへその下、指4本分。下腹部を温め、腎と元気を支える経穴。
妊娠中、または妊娠の可能性がある場合は、三陰交や関元を含め、下腹部・足首周辺への強い刺激は避け、必ず専門家にご相談ください。ご自分で触れる場合も、温める程度にとどめてください。あくまで目安であり、実際には、その方の脉やお腹の状態、冷え、時期によって選ぶ経穴は変わります。
毎月つらい、けれど婦人科では大きな異常はないと言われた——そんなときは、東洋医学の身体観で自分の周期を読み直す入口として、鍼灸という選択肢があります。ご相談・ご予約は、梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院まで、LINEまたはお電話でお気軽にどうぞ。