「咳が続く時期は、なぜか便通も乱れる」
「乾燥すると、喉だけでなく便も硬くなる」
東洋医学には「肺と大腸は表裏の関係にある」という考え方があります。咳は肺、便秘は大腸の問題なのに、なぜ二つを一緒に考えるのでしょうか。
ここで最初に分けておきたいのは、現代医学では咳と便秘をそれぞれの原因から評価するということです。肺と大腸が直接一本の管でつながり、一方を整えればもう一方も治るという話ではありません。「表裏」は、身体の働きや経絡の関係を読み解く、東洋医学独自の見取り図です。
現代医学では咳と便秘を別々に確認する
咳には、呼吸器、鼻や喉、胃食道など、さまざまな背景があります。便秘も、食事や水分、活動量、薬、腸の働き、排便環境など複数の要素が関わります。同じ時期に起きていても、必ず同じ原因とは限りません。
近年は、腸内細菌やその代謝物、免疫を介して腸と肺が影響し合う可能性を調べる「腸肺軸」の研究が進んでいます。ただし、仕組みや臨床での意味には未解明な点が多く、東洋医学の「肺と大腸は表裏」を証明した研究ではありません。似て見える二つの考え方を、そのまま同一視しないことが大切です。
この記事は、咳と便秘それぞれの背景を医療機関で確認しながら、暮らしの調整と並行できる東洋医学の見方を知りたい方に向けています。咳そのものについては、長引く咳と鍼灸、便通については便秘と鍼灸で詳しく扱っています。
「表裏」は臓と腑の組み合わせ
東洋医学では、身体の働きを五臓六腑に分け、陰に属する「臓」と陽に属する「腑」を対にして捉えます。肺と大腸、脾と胃、心と小腸、肝と胆、腎と膀胱という組み合わせです。
肺と大腸は、手の太陰肺経と手の陽明大腸経という経絡でも対になります。肺経は胸から腕の内側を通って親指へ、大腸経は人差し指から腕の外側、肩、首を通って顔へ向かいます。表裏とは、解剖学的に隣り合うという意味ではなく、陰陽の異なる働きが内外で支え合う関係です。
この見方があるため、東洋医学では咳だけを胸で、便秘だけをお腹で考えません。呼吸、皮膚や鼻の乾燥、便の状態、食欲、汗、冷えなどを一つの身体の情報として見ていきます。
肺の「粛降」と大腸の「伝導」
東洋医学の肺には、気や津液を全身へ広げる「宣発」と、下へ降ろす「粛降」という働きがあります。呼吸を整え、不要なものを外へ出し、水分の巡りを調整する働きを含んだ概念です。
大腸には、食べ物から必要なものを受け取ったあと、残ったものを便として下へ送り出す「伝導」の働きがあります。肺の気が下へ降りることと、大腸が便を下へ送ることには、どちらも「降ろして外へ出す」という共通点があります。
そのため古典では、肺の粛降が乱れると咳が出やすくなるだけでなく、大腸の伝導にも影響すると考えました。反対に、大腸に熱や滞りがある状態を、肺の気が降りにくいことと合わせて読む場合もあります。
ただし、これは咳と便秘が常に同時に起こるという意味ではありません。東洋医学でも、風寒や風熱、痰湿、肺気虚、肺陰虚など咳の読み方は複数あり、便秘にも熱、気滞、血虚、陰虚、陽虚などさまざまな状態があります。
秋の乾燥が二つに重なることも
空気が乾く秋は、鼻や喉、皮膚の乾燥と、便の硬さが同じ時期に目立つことがあります。東洋医学では、乾燥の邪気である「燥邪」が肺を傷り、身体を潤す「津液」を消耗させると捉えます。
肺と大腸を一緒に見るときも、「乾燥がすべての原因」とは決めません。口や喉は乾くのに便は軟らかい人もいれば、冷えが強く便が出にくい人、緊張すると咳と便意の両方が乱れる人もいます。季節、食事、水分、睡眠、薬、活動量を含めて、その人に重なっている要素を見分けます。
秋の肺と乾燥については、白露・秋分と東洋医学にも記しました。腸の状態が緊張や生活リズムと重なる方は、過敏性腸症候群と鍼灸も参考になります。
鍼灸では胸とお腹、手足を組み合わせる
鍼灸は、咳や便秘の原因確認や医療に代わるものではありません。また、肺と大腸のつぼを使えば二つが同時に治ると断定できるものでもありません。当院では、呼吸の様子、喉や鼻の乾燥、便の硬さや回数、お腹の張り、食欲、冷え、疲れなどを確認し、気血のバランスを見ます。
肺の働きを見る経穴には、手首の太淵(たいえん)、前腕の列缺(れっけつ)、背中の肺兪(はいゆ)があります。大腸経では、手の合谷(ごうこく)や肘の曲池(きょくち)を候補にします。
お腹では大腸の募穴である天枢(てんすう)、脚では大腸の下合穴である上巨虚(じょうこきょ)、脾胃を含めて支える足三里(あしさんり)などを使うことがあります。気が滞って便が出にくいと捉えるときは支溝(しこう)、腰背部では大腸兪(だいちょうゆ)も選択肢です。
使う経穴は、咳と便秘という二つの言葉だけでは決まりません。乾燥が中心か、冷えや疲れが強いか、痰やお腹の張りがあるかによって組み合わせを変えます。呼吸器の病気に伴う咳を扱う間質性肺炎と鍼灸でも、鍼灸は医療と並行する補助ケアとして位置づけています。
出すためには、入れることと巡らせることも必要
日々の養生では、喉や便のために水分だけを増やせばよいとは限りません。食事で汁物や水分を含む料理を取り入れ、室内の湿度を保ち、身体を無理なく動かします。水分や食事に制限がある方は、医療機関で案内されている範囲に合わせます。
呼吸と排便には、どちらも横隔膜や腹部の動きが関わります。ただし、腹式呼吸をすれば便秘が治るという意味ではありません。息を止めて強くいきむ習慣や、咳をこらえて身体を固め続ける状態を見直し、呼吸とお腹が動ける姿勢をつくることが基本です。
座っている時間が長い人は、胸を張り続けるのではなく、ときどき立って肩や背中を動かします。歩くことは活動量を保ち、生活のなかで腸が動くきっかけにもなります。咳がある日は距離や速さを競わず、その日の呼吸に合う範囲へ調整します。
便意を我慢し続けず、朝食後など落ち着いてトイレに座れる時間をつくることも大切です。咳があると腹部に力が入りにくかったり、反対に咳き込むたび腹圧がかかったりするため、排便を急いで強くいきむのではなく、足台などで姿勢を整えます。
肺と大腸の表裏関係は、「咳と便秘には同じ治療」という近道ではありません。息を入り口にし、便を出口にして、その間の水分、食事、巡りを一緒に見るための考え方です。二つを結びつけすぎず、別々の原因を確認したうえで身体全体を整える。それが現代に生かせる「肺と大腸は表裏」の読み方です。
咳と便秘それぞれの背景を確認しながら、呼吸、便通、乾燥、冷えを一つの身体として見る鍼灸をお探しの方は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院へ、LINEまたはお電話でご相談ください。