朝、草の葉に露が光っている。日が暮れるのが早くなった——九月、白露から秋分にかけて、足立区梅島でも空気の質がはっきり変わります。暑さが遠のいた安心の一方で、肌やのどの乾き、朝夕の冷え、寒暖差による疲れが出はじめる時期です。この記事では、白露と秋分という二つの節気を手がかりに、陰陽が入れ替わるこの季節の身体と、東洋医学の養生をお伝えします。

朝の草に露が光る ─ 白露という季節

白露は二十四節気のひとつで、2026年は9月7日にあたります。夜のあいだに気温が下がり、空気中の水分が冷えて草木の表面に露を結ぶ。それが朝日に照らされて白く光る——その情景がそのまま名前になった、美しい節気です。この時期の最初の候も「草露白(くさのつゆしろし)」と呼ばれます。

露が降りるということは、夜がそれだけ冷えているということです。日中はまだ汗ばむ日があっても、夜の空気はもう秋のものに変わっています。この昼と夜の落差が、九月の身体にとっての最初の負担になります。

夏から秋への道のりを、この院では三度に分けてお話ししてきました。暦は秋でも体感は真夏だった立秋の養生、暑さがようやく峠を越えた処暑・晩夏の養生。そして白露からは、夏を振り返る季節ではなく、これから深まる秋と、その先の冬に向けて身体を整えていく季節に入ります。

秋分、昼と夜が入れ替わる ─ 陽から陰へ

白露の次にやってくるのが、秋分です。2026年は9月23日。昼と夜の長さがほぼ等しくなる日で、これを境に日は短く、夜は長くなっていきます。秋のお彼岸の中日でもあり、「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉のとおり、残暑もこのころには和らぎます。

東洋医学の根本には、陰陽という考え方があります。一日でいえば昼が陽、夜が陰。一年でいえば、夏が陽の極みで、冬が陰の極みです。その見方をあてはめると、秋分は陽と陰がちょうど釣り合う日であり、夏至と冬至のちょうど中間点にあたります。そしてこの日を境に、自然界は陰が優勢な季節へと傾いていきます。

陰陽が入れ替わる節目は、一年に二度あります。春分と秋分です。同じ「昼夜が等しい日」でありながら、春分から夏至へは陽が伸びていく上り坂、秋分から冬至へは陰が深まる下り坂と、その後に向かう方向は正反対です。だから秋分は、身体を広げていく季節ではなく、収めていく季節の入口になります。

秋分のころは、夜が長くなり、朝夕の寒暖差も大きくなります。外の環境が陽から陰へ切り替わるとき、身体もまた切り替えを求められる——東洋医学では、そのように捉えます。寒暖差で自律神経が揺れやすい方は自律神経の乱れと鍼灸を、秋雨や台風で決まって不調が出る方は気象病・天気痛と鍼灸もあわせてご覧ください。

陽気を内へ収める ─ 秋の「収斂」を深める

『黄帝内経』は、秋の過ごし方を「収斂(しゅうれん)」の一語で示します。神気を収斂させ、秋の気を平らかに保つ。夏に外へ向けて発散させていた陽気を、内へ内へと収めていく季節だという意味です。早寝早起きを心がけ、気持ちを穏やかに保ち、あれもこれもと予定を広げない。立秋や処暑で始めた切り替えを、白露・秋分でさらに深めていきます。

この収斂は、それ自体が目的ではありません。冬に向けて力を蓄える「封蔵」への準備です。秋の養生を、冬に備える下ごしらえとして重ねていきます。

日が短くなるこの時期、なんとなく気持ちが沈む、朝が起きにくい、と感じる方は少なくありません。東洋医学では秋は肺の季節であり、肺は感情でいえば「もの悲しさ」に対応するとされてきました。日照が減る季節に気分が内へ向かうのは、自然な流れでもあります。季節のものだと知っておくだけでも、いくらか楽になります。ただ、生活のリズムが崩れて眠りの質まで落ちてくると回復が遅れますので、寝つきや眠りの浅さが気になる方は不眠の4つのタイプと鍼灸を参考にしてみてください。

乾燥が本格化する ─ 燥邪と肺

白露を過ぎると、空気の乾きがはっきりしてきます。東洋医学で秋の邪気とされるのが「燥邪(そうじゃ)」、すなわち乾燥の邪気です。燥邪は主に口と鼻から入り込んで肺を傷め、身体の潤いを消耗させると考えられてきました。

肺は潤いを好み、乾燥を嫌う臓です。燥邪に潤いを奪われると、乾いた咳、のどや鼻の乾き、肌のかさつきやかゆみとして現れます。東洋医学では肺と大腸は表裏の関係にあるとされ、便が乾いて出にくくなることもこの流れで理解されます。夏のあいだ気にならなかった不調が、秋になって表に出てくるのはこのためです。乾いた咳が長引くときの身体については、長引く咳と乾燥を東洋医学の燥邪から読む記事で詳しく記しました。

大切なのは、乾燥が本格化してから慌てないことです。白露のうちから少しずつ潤いを蓄えておくほうが、秋の後半から冬にかけて、身体はずっと楽になります。

少辛多酸 ─ 秋の食養生と、冷えへの備え

秋の食養生には「少辛多酸(しょうしんたさん)」という原則があります。辛いものは少なめに、酸味のあるものを多めに、という意味です。五味でいえば肺に対応するのは辛味ですが、辛味は発散させる性質を持つため、摂りすぎるとかえって乾燥を強めてしまいます。いっぽう酸味は収斂し、潤す方向に働きます。梅干し、柑橘、酢の物を少し。収斂の季節にふさわしい食べ方です。

あわせて、肺を潤す「白い食材」を。梨、白きくらげ、れんこん、百合根、白ごま、山芋、豆腐などが、古くから肺を潤すものとして親しまれてきました。旬の梨や柿、ぶどうも、この季節の身体に合います。水分は常温か温かいものを少しずつ。冷たいものを摂りすぎると、今度は脾胃を冷やしてしまいます。

乾燥そのものへの手当ても、この時期から始めます。のどや鼻には加湿とマスク、肌には入浴後の保湿を習慣に。そして、朝夕の冷えへの備えも忘れずに。羽織もの一枚、首元と足元を冷やさないこと。入浴は就寝の1時間ほど前にぬるめの湯へ、長湯でのぼせない心地よい範囲で。夏の薄着と冷たい飲食をそのまま続けていると、冷えは思ったより早く身体に入ってきます。もともと冷えやすい方は、冷え性の原因と鍼灸で体質的な冷えの扱いを確かめておくと、冬の入り口が違ってきます。

鍼灸とお灸でできること

この時期の不調に対して、まず土台になるのは、睡眠・食事・潤い・冷え対策といった日々の養生です。鍼灸やお灸はそこに並行する補助ケアとして、肺の潤いを支え、陽気を内へ収めやすくし、寒暖差で揺れる自律神経を整えていきます。乾燥に効く、秋バテが治るというものではなく、季節の深まりに身体が応えやすいよう整える補助、という位置づけです。

白露・秋分の身体には、潤すことと温めること、二つの方向があります。東洋医学的な見立てから、この時期によく用いられる代表的な経穴を紹介します。

  • 太淵(たいえん/肺経):手首の内側、親指側。肺の気を養う代表穴。秋の要。
  • 肺兪(はいゆ/膀胱経):背中の上部、背骨の両脇。背中から肺を養い、皮膚を守る。
  • 照海(しょうかい/腎経):内くるぶしのすぐ下。のどの乾きに。陰を潤す。
  • 太渓(たいけい/腎経):内くるぶしとアキレス腱の間。腎の潤いを養い、肺を下から支える。
  • 関元(かんげん/任脈):おへその下、指四本分。元気を養い温める。冬への備えのお灸に。
  • 足三里(あしさんり/胃経)・三陰交(さんいんこう/脾経):膝の下と内くるぶしの上。気血の土台を養う。
  • 大椎(だいつい/督脈):首を前に倒すと出る骨の下。朝夕の冷えで首肩がこわばるときに。

これらは「秋分だからこのツボ」という決まった処方ではありません。脉やお腹の状態、のどや肌や便に出ている乾きのきざし、寒暖差での不調の出方、手足の冷え、夏の疲れの残り具合まで合わせて、いま潤いが要るのか、温めが要るのか、収める助けが要るのかを診分けていきます。肺は水の上の源、腎は水の下の源とされ、この二つを養うことが秋の潤いを支えます。乾燥や冷えが本格化する前に整えておくという考え方は、脉診流経絡治療の「未病を治す」とそのまま重なります。

陰陽が入れ替わり、季節が秋の本番へ向かうこの時期に、潤いを蓄え、冷えへの備えを始めておく。それが、この先の冬に備える下ごしらえになります。ご相談・ご予約は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院まで、LINEまたはお電話でお気軽にどうぞ。