立ち上がった瞬間、目の前がすっと暗くなる。顔色が悪いと言われる。休んでも疲れが抜けない——足立区梅島のはりきゅうはれ梅島院にも、貧血や立ちくらみ、そのふらつきと疲れやすさについてのご相談が届きます。血液検査では異常なしと言われたのに不調が続く、という方も少なくありません。この記事では、貧血と立ちくらみの違いを整理したうえで、東洋医学が「血虚」という言葉で身体をどう読むのかをお伝えします。
同じ「くらっ」でも、中身は違う
まず、混ざりやすい二つを分けておきます。
ひとつは貧血です。血液中のヘモグロビンが少なくなり、身体へ酸素を運ぶ力が低下した状態です。軽い場合は症状がないこともありますが、進むと立ち上がったときだけでなく、動いたときの息切れ、疲れやすさ、だるさ、頭の重さなどとして現れます。貧血の原因はさまざまですが、代表的なものが鉄不足です。月経のある方は血液とともに鉄を失うため、鉄欠乏になりやすいことが知られています。
もうひとつが立ちくらみです。こちらは立ち上がった瞬間に起こります。立位になると重力で血液が下半身に集まり、心臓に戻る血液が一時的に減ります。ふだんは自律神経がすばやく血管を締めて血圧を保つのですが、その調節が追いつかないと、脳へ向かう血流が一瞬減ってくらっとします。脱水や疲労、暑さ、長く立ち続けたあとなどに起こりやすくなります。
つまり、貧血は「酸素を運ぶ力」の問題、立ちくらみは「立ち上がったときの循環調節」の問題です。両方が重なることもあります。貧血は血液検査で、立ちくらみに関わる血圧の変化は、横になった状態と立ったあとの血圧・脈拍を比べることで確認します。
ヘモグロビンだけでは分からない ─ 「隠れ貧血」
ここで、知っておくと役に立つ話があります。いわゆる「隠れ貧血」は、医学的には、貧血を伴わない鉄欠乏などと呼ばれる状態です。ヘモグロビンが下がる前に、貯蔵鉄を反映するフェリチンが低下している段階があります。一般的な健康診断ではフェリチンが検査項目に含まれないこともあり、ヘモグロビンが基準内だと初期の鉄不足が見つからない場合があります。フェリチンなどの検査を含めて確認することで、身体の鉄の状態が見えやすくなります。
この段階でも、頭痛や頭の重さ、肩こり、疲れが取れない、立ちくらみ、動悸、冷え、肌荒れ、爪が割れやすい、抜け毛といった不調は現れます。ただし、これらは鉄不足だけに特有の症状ではありません。「検査では異常なしと言われたけれど、どうにも調子が戻らない」という感覚には、こうした背景があることもあります。まずは、いま自分の身体がどの状態にあるのかを確かめておくと、その先の手当てが選びやすくなります。
東洋医学の「血虚」─ 検査が正常でも、血が足りていないことがある
東洋医学には「血虚(けっきょ)」という言葉があります。血が不足し、身体のすみずみを養いきれていない状態です。
現代医学の貧血と重なる部分はありますが、同じものではありません。東洋医学が見ているのは血の量そのものというより、「血が身体を養えているか」だからです。ですから、血液検査の数値が正常でも、東洋医学の見立てでは血虚と診ることがあります。
血虚のときに現れやすいのは、顔色につやがない、めまいや立ちくらみ、動悸、眠りが浅く夢が多い、髪がぱさつく・抜ける、爪が割れやすい、肌が乾く、目が疲れやすくかすむ、月経の量が少ない、といったサインです。どれも「血が養う場所」に不足が出ている、という読み方をします。眠りの浅さが目立つ方は不眠の4つのタイプと鍼灸、動悸が気になる方は動悸と鍼灸、筋がつりやすい方はこむら返り(足がつる)と鍼灸でも、それぞれ血の視点から扱っています。
血を作る脾、巡らせる心、蔵す肝
東洋医学が面白いのは、「血が足りない」で終わらせず、どこでつまずいているのかを分けて考えるところです。血には主に三つの臓が関わります。
脾は、飲食物から気血を作り出す源とされます。東洋医学では、脾胃が弱ると、食べたものから気血を生み出す土台が弱くなると考えます。食が細い、食後にだるい、軟便になりやすい、といったサインが出ます。
心は「血脈を主る」とされ、血の巡りと、血によって神(精神や眠り)を養う働きに関わります。心の血が不足すると、動悸、眠りの浅さ、不安、顔色の冴えなさとして現れます。
肝は血を蔵え、必要に応じて目や筋、爪、月経を養います。肝の血が不足すると、目が疲れる、筋がつる、爪が弱る、月経が乱れるといった形で現れます。
作るのが脾、巡らせるのが心、蔵えるのが肝。「鉄を意識して摂っているのに、今ひとつ変わらない」という方に、東洋医学は「作る力そのものが弱っているのかもしれません」という別の角度を差し出します。材料と、それを血に変える力は、別のものだからです。この考え方は、寝ても疲れがとれない(慢性疲労)と鍼灸で扱った気血両虚とも地続きです。
気が血を動かす ─ 立ちくらみと「清陽不昇」
では、立ちくらみは東洋医学でどう読むのでしょうか。
東洋医学には「気は血の帥(すい)、血は気の母」という言い方があります。気が血を動かし、血が気を養う。二つは一組で働きます。血があっても、それを持ち上げ巡らせる気が足りなければ、身体のすみずみ、とくに高いところにある頭は養われません。
立ち上がった瞬間にくらっとするのは、「清陽(澄んだ気)が頭に昇りきらない」状態として読めます。食後にどっと眠くなる、朝がとくにつらい、頭がぼんやりして働かない、といった感覚も同じ軸にあります。頭のもやが主訴の方はブレインフォグ(頭のもや)と鍼灸もあわせてご覧ください。なお、朝起きられないお子さんの起立性調節障害については起立性調節障害と鍼灸で扱っていますので、お子さんのことでお悩みの場合はそちらをご覧ください。
現代医学が「酸素を運ぶ力」と「立ち上がったときの循環調節」に分けて説明することを、東洋医学は「気血」という一枚の絵で捉えます。だから貧血にも立ちくらみにも、気と血の両面から手当てをしていきます。
貧血・立ちくらみに鍼灸でできること
はじめに、正直にお伝えしておきます。鍼灸は鉄不足を補う治療の代わりにはならず、ヘモグロビンやフェリチンを改善させる根拠も確立していません。鉄が不足しているなら、医療機関での確認と対応がまず基本です。
そのうえで、鍼灸にできることがあります。血を作る土台である脾胃の働き、つまり食欲や消化を整えること。気血の巡りと、血圧を調節している自律神経の働きを支えること。そして血虚に伴って現れる立ちくらみ、動悸、眠りの浅さ、冷え、疲れやすさ、目の疲れを、気血の観点から整えていくことです。「血を増やす」のではなく、「血を作れる身体、巡らせられる身体を支える」という言い方が、実際に近いと考えています。
東洋医学的な見立てから、血虚の身体によく用いられる代表的な経穴を紹介します。
- 足三里(あしさんり/胃経):膝の外側の下、指四本分。脾胃を補い、気血を作る力を支える。お灸に向く。
- 三陰交(さんいんこう/脾経):内くるぶしの上、指四本分。肝・脾・腎が交わる、血を養う要穴。
- 血海(けっかい/脾経):膝の内側の上。「血の海」の名のとおり、血を養い巡らせる。
- 膈兪(かくゆ/膀胱経):背中、肩甲骨の下あたり。血の要穴とされ、血の不調全般に。
- 脾兪(ひゆ/膀胱経):背中の中ほど。背中から脾を養い、作る力を支える。
- 百会(ひゃくえ/督脈):頭のてっぺん。澄んだ気を頭へ昇らせる。立ちくらみに。
- 神門(しんもん/心経):手首の内側、小指側の手首のしわの上。心を養い、動悸や眠りの浅さに。
これらは「貧血だからこのツボ」という決まった処方ではありません。脉やお腹の状態、顔色、食欲と消化の具合、月経の状態、睡眠、立ちくらみの出方が立ち上がった瞬間なのか常にだるいのか、目や爪の状態まで合わせて、脾で作れていないのか、心で巡らせられないのか、肝で蔵えられないのか、気が昇りきらないのかを診分けていきます。作る・養う・巡らせる・昇らせる、どこを支えるかは人によって変わります。
血を養う食べ方と、暮らしの工夫
血の話は、日々の食卓と地続きです。まず、欠食や極端な食事制限を避けること。血には材料と、それを作る力の両方が要ります。鉄を含む食材としては、赤身の肉やレバー、かつお・まぐろなどの魚、あさり、小松菜、ほうれん草、大豆製品が知られています。動物性の鉄は吸収されやすく、ビタミンCと合わせると吸収が高まります。東洋医学で血を養うとされる黒ごま、黒豆、きくらげ、なつめなども、日々の一品として取り入れやすい食材です。
ただ、何を食べるかと同じくらい、どう食べるかが大切です。よく噛み、胃腸に負担をかけない。冷たいものばかりで胃腸を冷やさない。作る力である脾を守ることが、東洋医学の食養生の中心にあります。
立ちくらみには、その場の工夫も効きます。寝た姿勢からいきなり立たず、座る段階をはさんで、ゆっくりと。長く立ち続けるときは、ときどき足首を動かしたり、かかとを上げ下げして、下半身にたまった血液を戻してあげる。暑い時期や入浴後は、水分を意識して。朝がつらい方は、布団のなかで手足を動かしてから起き上がると違います。
そして、休むこと。東洋医学では、眠っているあいだに血は肝に帰り、養われると考えます。夜更かしは血を消耗させ、考えすぎもまた、血を作る力を弱めます。血が足りないと冷えやすくもなりますから、お腹と足元を温めること、軽く歩いて巡りを保つこと、足三里や三陰交へのお灸も、続けやすい養生です。もともと冷えやすい方は冷え性の原因と鍼灸も参考になります。
月経や出産、閉経前後の月経の変化など、女性の身体は年代によって血の影響を受けやすい時期があります。東洋医学が女性の身体を「血」から見てきた理由が、ここにあります。生理痛の重さが気になる方は生理痛の原因と鍼灸を、閉経前後の揺らぎのなかでの不調については更年期障害と鍼灸もあわせてご覧ください。
立ちくらみやふらつき、疲れやすさとの付き合い方について、ご相談・ご予約は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院まで、LINEまたはお電話でお気軽にどうぞ。