「食べ物の味が薄く感じる」
「香りが分かりにくく、食事を楽しめない」
味覚と嗅覚は別の感覚ですが、食事のおいしさを感じるときには一緒に働いています。そのため「味がしない」と感じていても、実際には香りを感じる嗅覚の変化が大きく関わっていることがあります。
味やにおいの違和感には、鼻や口の状態、薬、栄養、感染症のあと、年齢、全身の病気など、さまざまな背景があります。この記事は、耳鼻咽喉科や歯科、医科で原因を確認しながら、食事や生活の工夫と並行できる補助ケアを探している方に向けたものです。
東洋医学には「脾は口に開竅し、肺は鼻に開竅する」という考え方があります。現代医学の味蕾や嗅神経を説明した言葉ではありませんが、食べる力と呼吸、鼻、胃腸、全身の状態を一緒に見る手がかりになります。
「味」と「風味」は同じではない
舌で感じる基本味には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味があります。一方、コーヒー、だし、果物、焼いた魚など、それぞれの食べ物らしさは、鼻から感じる香りが大きく支えています。
食べ物を噛むと、口の奥から鼻へ香りの成分が抜けます。これを「レトロネーザル経路による嗅覚」と呼びます。鼻づまりなどで香りを捉えにくいと、舌では甘味や塩味を感じていても、全体として「味が分からない」と感じることがあります。
実際に、味覚が失われたと思って受診する人のなかには、嗅覚の変化が中心の人が少なくありません。味覚と嗅覚を分けて確認することは、原因に合う支援を考える出発点になります。
原因を確認してから、身体全体を見る
味覚の違和感には、口腔の乾燥、歯や舌の状態、薬、亜鉛などの栄養状態が関わることがあります。嗅覚の違和感には、鼻や副鼻腔の状態、上気道の感染後、年齢、外傷、薬など複数の背景があります。同じ「分かりにくい」という感覚でも、入り口は一つではありません。
耳鼻咽喉科では、鼻の状態や嗅覚・味覚の程度を確認します。口の乾燥、歯、舌、義歯などは歯科での確認も大切です。服用中の薬が関係しているように思えても、自己判断で中止や減量をせず、処方した医師や薬剤師と相談します。
鼻づまりや副鼻腔の状態が重なる方は、副鼻腔炎と鍼灸や花粉症と鍼灸も参考になります。口の乾きが中心の方は、唾液と口腔環境を別に確認する必要があります。
東洋医学で脾は口に開竅する
東洋医学の「脾」は、解剖学的な脾臓だけを指しません。飲食物から気血のもとを取り出し、全身へ運ぶ「運化」を中心とした働きのまとまりです。脾胃の状態は、食欲、食後の重さ、便通、口の味などへ現れると考えます。
脾胃の気が不足した「脾胃気虚」では、味を楽しみにくいだけでなく、食欲が乏しい、少量で疲れるといった傾向を合わせて見ます。口のなかがねばつき、身体が重い場合は「湿困脾」、苦味や不快な味が強い場合は「湿熱」や肝胆の状態を候補にします。
口が乾き、舌の潤いが少なく、食べたいのに量が入らない場合は「胃陰不足」という見方があります。味の感じ方だけで分類するのではなく、口腔、胃腸、便通、睡眠、冷えやほてりを一緒に確認します。
食後のもたれや早い満腹感がある方は、機能性ディスペプシアと鍼灸の視点も重なります。食べる量が減り、筋肉や活動量への影響が気になる場合は、サルコペニアと鍼灸もご覧ください。
東洋医学で肺は鼻に開竅する
東洋医学の肺は、呼吸器だけでなく、気を全身へ広げて下へ降ろす「宣発・粛降」、皮膚や鼻、身体の水分の巡りなどを含む概念です。鼻は肺の状態が外へ現れる場所の一つと考えられてきました。
鼻づまりや香りの感じにくさに、疲れや声の弱さが重なる場合は「肺気虚」、透明な鼻水や冷えが目立つ場合は寒の影響を含めて見ます。鼻の奥の重さや粘りがある場合は「痰湿」や「鼻淵」、乾燥が強い場合は「肺燥」という見方があります。
「脾は口、肺は鼻」という対応は、脾を整えれば味覚が戻り、肺を整えれば嗅覚が戻るという約束ではありません。感覚器だけを切り離さず、食事から気をつくる脾と、呼吸から気を取り込む肺を一つの流れとして見るための身体観です。
五行では土に属する脾が、金に属する肺を生む関係を「培土生金」と表します。脾胃の土台を支え、肺の気へつなぐという古典的な治法ですが、現代医学の神経回復を説明するものではありません。
鍼灸で感覚が戻るとは断定できない
味覚・嗅覚の違和感に対する鍼灸研究はありますが、対象、原因、鍼の方法が研究ごとに異なり、効果を確立したといえる段階ではありません。原因確認や耳鼻咽喉科、歯科での治療に代わるものでもありません。
当院では、味や香りの感じ方だけでなく、鼻の通り、口の乾き、食欲、胃もたれ、便通、睡眠、疲れ、首肩の緊張などを確認し、気血のバランスを見ます。医療と口腔ケア、食事の工夫に並行する補助ケアとして鍼とお灸を組み立てます。
鼻の状態を見る経穴には、小鼻の脇の迎香(げいこう)、眉間の印堂(いんどう)、背中の肺兪(はいゆ)、手首の太淵(たいえん)、前腕の列缺(れっけつ)があります。
脾胃の状態には、脚の足三里(あしさんり)や太白(たいはく)、腹部の中脘(ちゅうかん)、背中の脾兪(ひゆ)を候補にします。顔面と口鼻に関わる手の合谷(ごうこく)を組み合わせることもあります。
使う経穴は「味にはこのつぼ、においにはこのつぼ」と一律に決まりません。鼻の炎症が中心か、口腔乾燥や食欲低下が中心か、疲れや睡眠の乱れが重なるかによって、身体のどこへ比重を置くかを変えます。
食事の楽しみを守る工夫
味を感じにくいからといって、塩や砂糖を急に増やす必要はありません。香り、温度、食感、だし、酸味、彩りなど、味の濃さ以外の要素を組み合わせます。温かい料理は香りが立ちやすい一方、口の乾燥や刺激に合わせて食べやすい温度を選びます。
口のなかを清潔に保ち、舌は強くこすらず、歯や義歯の状態に合うケアを続けます。乾いた料理が食べにくい場合は、汁物、煮物、あんかけなど水分を含む形にします。
鼻の通りや室内の乾燥も、香りの感じ方や食べやすさに関わります。加湿と換気を行い、鼻の病気について案内されている治療やケアを続けます。自己流で刺激の強い香りを長時間嗅いだり、サプリメントを追加したりする前に、確認された原因に沿って進めることが大切です。
食事量が落ちているときは、「味が分かるまで食べない」のではなく、食べられる温度、形、量を探します。一人で抱えず、家族と一緒に食卓を囲む、好きだった料理を少量で試すなど、食事の時間そのものを守ります。疲れやだるさが重なる方は、寝ても疲れがとれない慢性疲労と鍼灸も参考になります。
味覚と嗅覚の違和感は、舌や鼻だけの問題とは限りません。原因を分けて確認し、口腔と鼻の状態を守りながら、食欲、胃腸、睡眠まで見る。鍼灸は感覚を取り戻すと約束するものではなく、その過程で身体の土台を支える選択肢の一つです。
耳鼻咽喉科や歯科、医科で原因を確認しながら、鼻、口腔、食欲、胃腸、睡眠を一緒に見る鍼灸をお探しの方は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院へ、LINEまたはお電話でご相談ください。