毎年、夏になるとだるくて食欲が落ちる。暑さで疲れが抜けず、夜は寝苦しくて、日中はぼんやりする——。こうした夏の不調は、昔から「暑気あたり」と呼ばれ、いわゆる夏バテと重なります。足立区梅島・はりきゅうはれ梅島院にも、夏の疲れを訴える方が多く来られます。この記事では、夏の疲れ・暑気あたりを東洋医学の視点から整理し、それをためないこと、つまり暑さに負けにくい身体を保つことが、どのように熱中症を招きにくくするのかをお伝えします。あわせて、鍼灸とお灸でできることをご紹介します。
はじめに大切なことをお伝えします。熱中症の予防で最も大切なのは、涼しい環境で過ごすこと、水分と塩分をこまめにとること、暑さに身体を慣らすこと、そしてよく眠ることです。環境省や厚生労働省が示すこれらの対策が予防の主役であり、東洋医学や鍼灸の養生は、その土台に重ねるものだとご理解ください。
夏の疲れをためないことが、熱中症を招きにくくする
夏の疲れ・暑気あたりは、熱中症の一歩手前・地続きにある状態でもあります。睡眠不足、食欲不振、大量の発汗による水分不足が重なって体力が落ちると、暑さに耐える余力そのものが失われ、熱中症を起こしやすくなります。
だからこそ、「夏の疲れをためない」ことが、熱中症を招きにくくする土台になります。繰り返しになりますが、予防の中心は涼しい環境・水分と塩分・睡眠、そして次にお話しする暑熱順化です。そのうえで、疲れにくい身体、暑さに応えられる身体をつくっていく——そこに、東洋医学の養生と鍼灸の出番があります。夏の疲れは、「暑さに負けにくい身体を整えてください」という身体からのサインとして受けとめると、前向きに向き合えます。
暑さに慣れる身体 ─ 暑熱順化と「夏は汗をかいて過ごす」
熱中症予防の柱のひとつが「暑熱順化(しょねつじゅんか)」です。これは、身体が暑さに慣れていくこと。暑い日が続くと、汗をかく力や皮膚の血流が高まり、汗がさらさらになって、体温調節が効率よくできるようになります。慣れるまでには数日から二週間ほどかかり、逆に数日涼しく過ごすと失われてしまいます。梅雨明けやお盆明け、急に暑くなった日に体調を崩しやすいのは、この順化が間に合わないためです。順化を促すには、無理のない範囲で汗をかくこと——ウォーキングや軽い運動、入浴などが役立ちます。
興味深いことに、この現代医学の暑熱順化は、東洋医学が古くから説く夏の養生と方向が一致します。古典『黄帝内経』は、夏は陽気を発散させ、適度に汗をかいて過ごすのがよい、と述べています。冷房で汗を止め、身体を動かさずに過ごすことは、この夏の身体のあり方に逆らうこと。無理のない範囲で汗をかき、暑さに応える身体を保つ——現代医学と東洋医学が、同じことを別の言葉で語っているのです。
東洋医学は、夏の疲れを「気と陰の消耗」と読む
東洋医学では、夏の邪気を「暑邪(しょじゃ)」と呼びます。暑邪は発汗を促し、身体のエネルギーである「気」と、潤いである「陰」の両方を消耗させます。この、気と陰がともに不足した状態を「気陰両虚(きいんりょうきょ)」といい、夏の疲れの中心にあります。「汗をかきすぎてぐったりし、水を飲んでも喉が渇く」「だるくて動悸や息切れがする」——そんな夏の消耗が、これにあたります。
暑邪はしばしば湿気(湿邪)を伴います。高温多湿の湿は、消化を担う脾を困らせ、だるさ、頭の重さ、食欲不振、胃もたれ、軟便を招きます。食べられないと体力が戻らず、さらに疲れる悪循環に入ります。また、東洋医学で夏は五臓の「心」に負荷がかかる季節です。暑さで心が消耗すると、動悸や寝苦しさ、イライラが出やすくなります。夏と心の関係は季節コラム夏は心の季節で、熱帯夜の寝苦しさは不眠と鍼灸で、それぞれ詳しく扱っています。
冷たいものと胃腸 ─ 夏こそ脾胃をいたわる
夏の疲れでとくに見落とされがちなのが、冷たいものによる胃腸の冷えです。冷たい飲み物やアイス、ビールを摂りすぎると、消化を担う脾胃が冷えて働きが落ち、腹痛や下痢、食欲不振、だるさにつながります。暑いからと冷たいものに偏ることが、かえって夏の疲れを長引かせてしまうのです。胃もたれや食欲不振が続く方は機能性ディスペプシアと鍼灸、むくみをともなう方は足のむくみと鍼灸の視点も、夏の脾胃とつながります。
夏の水分補給は、冷たいものを一気に飲むより、常温から温かいもの——麦茶や薄めた飲み物を、ゆっくり少しずつ。暑さを冷ます夏野菜(きゅうり・トマト・なす・すいか)で潤いを補いつつ、冷えが強い方は摂りすぎに気をつける。こうした脾胃への気づかいが、夏を乗り切る土台になります。
夏こそお灸 ─ 鍼灸でできること
はっきりお伝えしておきたいのは、熱中症そのものは緊急の対応が必要なもので、鍼灸が扱う領域ではないということです。鍼灸にできるのは、あくまで夏の疲れをためにくい、暑さに負けにくい身体の土台づくりという、予防と養生の補助です。汗で消耗した気と陰を養い、冷えたり湿で困ったりした脾胃を支え、夏に負担のかかる心を養う——そうして、身体が夏に応えやすい状態を整えていきます。「熱中症に効く」「夏バテが治る」というものではなく、暑さに負けにくい身体づくりに関わる鍼灸やお灸の働きが研究されている、という位置づけです。
「夏は暑いのにお灸?」と思われるかもしれません。けれど、冷たい飲食や冷房で身体の内側はむしろ冷えていることが多く、脾胃を温めるお灸は夏の疲れによく合います。東洋医学的な見立てから、夏の疲れによく用いられる代表的な経穴を紹介します。
- 足三里(あしさんり/胃経):膝の外側の下、指四本分。脾胃を補い、食欲や気力を支える。「夏こそお灸」の代表穴。
- 関元(かんげん/任脈):おへその下、指四本分。下腹部を温め、元気を養う。お灸との相性がよい。
- 三陰交(さんいんこう/脾経):内くるぶしの上、指四本分。脾を助け、汗で消耗した潤い(陰)を養う。
- 湧泉(ゆうせん/腎経):足裏のくぼみ。上にのぼった熱を下へ降ろし、のぼせや夏の疲れに。
- 内関(ないかん/心包経):手首の内側、横じわから指三本上。動悸や吐き気、夏に消耗しやすい心に。
これらは「夏バテにはこのツボ」という決まった処方ではありません。脉やお腹の状態、汗のかき方、食欲、睡眠、動悸やだるさの質まで合わせて、気と陰のどちらが消耗しているのか、脾胃が冷えているのか湿で困っているのかを読みながら組み立てます。不調がはっきり現れる前に整える「未病を治す」という脉診流経絡治療の考え方は、まさに夏の疲れをためないという養生と重なります。長く疲れが抜けない方は、寝ても疲れがとれない慢性疲労と鍼灸や自律神経の乱れと鍼灸もあわせてご覧ください。
暑さに負けにくい身体をつくる暮らし方
まず土台として、熱中症警戒アラートが出る日は無理をせず、エアコンを適切に使い、水分と塩分をこまめにとり、睡眠環境を整えてよく眠ること。梅雨明け前から無理のない範囲で汗をかき、暑さに慣れておくこと。これらの公的な予防策が何よりの基本です。
そのうえで、東洋医学の養生を重ねます。冷たいものを摂りすぎず、常温から温かい水分をゆっくりと。山芋や豆腐で気と潤いを養い、梅干しなどの酸味で汗のかきすぎを抑える。暑さにイライラせず、ゆったり過ごす(「心静自然涼」)。そして、足三里や関元へのお灸で脾胃を温め、気を養う。夏の疲れを「夏だから」と我慢して秋へ持ち越さないことが、次の季節の元気につながります。
なお、涼しい所で休んで水分・塩分をとっても回復しない、意識がもうろうとする、自分で水が飲めないといった重い状態は、鍼灸で対応するものではありません。ためらわず救急・医療機関に頼ってください。
夏の疲れを、暑さに負けにくい身体づくりのきっかけに。ご相談・ご予約は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院まで、LINEまたはお電話でお気軽にどうぞ。