暦の上ではもう秋。けれど外はまだ真夏の暑さで、汗が止まらない。そのうえ、夏の疲れがどっと出て、だるくて食欲もわかない——。八月に入り立秋を迎えるころ、こうした声が足立区梅島・はりきゅうはれ梅島院にも増えてきます。立秋は、暑さのピークにありながら暦は秋へと動く、不思議な節目です。この記事では、立秋という時期に身体で何が起きているのかを整理し、「夏の後始末」と「秋支度」という二つの向きから、東洋医学の養生をお伝えします。
朝夕にふと感じる涼しさ、少しずつ短くなる日——。まだ夏のただ中に見えて、身体はもう、秋の気配に応えはじめています。
暦の上ではもう秋、でもまだ暑い ─ 立秋という節目
立秋は二十四節気のひとつで、2026年は8月7日にあたります。「秋が立つ」、つまり暦のうえでの秋の始まりです。この日を境に、季節の挨拶も「暑中見舞い」から「残暑見舞い」へと変わります。
とはいえ、体感としては一年で最も暑い時期。この「暦は秋、体感は真夏」というギャップこそが、立秋のややこしさです。身体は、まだ続く暑さに耐えながら、同時に、忍び寄る秋の気配にも対応しはじめなければなりません。だから立秋は、夏にためこんだ疲れが噴き出す時期であり、これから始まる秋の乾燥に備えを始める時期でもある——二つの意味が重なる節目なのです。まず前半で「夏の後始末」を、後半で「秋支度」を見ていきます。
夏の後始末 ─ 秋バテと、夏に消耗した身体
涼しさが差し込みはじめるこの時期に、夏の疲れがどっと表に出ることがあります。いわゆる「秋バテ」です。夏のあいだの睡眠不足、冷房の当たりすぎ、冷たい飲食が自律神経の乱れとして持ち越され、そこへ、日中の残暑と朝夕の涼しさという昼夜の寒暖差が加わります。だるさ、食欲不振、胃もたれ、肩こり、頭痛、気分の落ち込み——夏の消耗が、秋の入り口で一気に噴き出すのです。
東洋医学の言葉でいえば、夏の暑さと汗で「気」と「陰(潤い)」を消耗したまま、冷たいもので脾胃(消化)を弱らせたまま、秋を迎えた状態です。だからまず必要なのは、夏の後始末。弱った脾胃を立て直し、消耗した気と潤いを養うことです。夏の疲れそのものは夏の疲れ・暑気あたり、冷房で冷えた身体は冷房病・クーラー病と鍼灸、夏の胃腸の弱りは夏の土用と東洋医学、暑さで削られた眠りは熱帯夜の不眠で、それぞれ扱っています。なお、暦は秋でも残暑はまだ厳しく、熱中症への注意は引き続き大切です。涼しい環境と水分・塩分を忘れずに。
秋支度 ─ 東洋医学の「肺」と、これから始まる乾燥
もうひとつの向きが、秋支度です。東洋医学では、夏は五臓の「心」の季節でしたが、秋は「肺」の季節とされます。この夏から秋へのバトンは、季節コラム夏は心の季節からの続きにあたります。
肺は、呼吸だけでなく、皮膚を守り、水分を巡らせる働きを担い、鼻・皮膚・大腸と深くつながり、感情では「もの悲しさ」に関わるとされます。そして肺には、大きな弱点があります。「肺は潤いを好み、乾燥を嫌う」——乾いた空気がとても苦手なのです。秋の邪気は「燥邪(そうじゃ)」、すなわち乾燥の邪気。これから空気が乾いていくにつれ、燥邪が肺を痛め、乾いた咳、のどや鼻の乾き、肌のかさつき、便秘といった不調の入口になります。立秋の時点ではまだ湿度が高いのですが、だからこそ今のうちから、肺に潤いを蓄えておくのが秋支度です。乾いた咳が長引く秋の不調は長引く咳と乾燥で詳しく扱っていますので、あわせてご覧ください。
古典『黄帝内経』は、秋を「収斂(しゅうれん)」の季節とします。夏に外へ外へと発散させた陽気を、内へ収めていく時期。早寝早起きを心がけ、気持ちを穏やかに保ち、あれもこれもと外へ散らさず、内へ静かに収めていく。夏の高ぶりからギアを一段落とすことが、秋の養生の入り口になります。
鍼灸とお灸でできること
立秋の不調に対して、まず基本になるのは、睡眠・食事・冷え対策・潤いといった日々の養生です。鍼灸やお灸はそこに並行する補助ケアとして、夏に消耗した気と陰、弱った脾胃、揺れた自律神経を支え、身体が秋へと切り替わりやすい状態を整えていきます。「秋バテが治る」というものではなく、季節の切り替えに身体が応えやすいよう整える補助、という位置づけです。
大切なのは、いま「夏の後始末」が必要な身体か、もう「秋支度」に入る身体かを見分けることです。東洋医学的な見立てから、この時期によく用いられる代表的な経穴を紹介します。
- 足三里(あしさんり/胃経):膝の外側の下、指四本分。脾胃を補い温める。夏の後始末・お灸に。
- 中脘(ちゅうかん/任脈):みぞおちとおへその中間。弱った胃を整える。夏の胃腸の後始末に。
- 太淵(たいえん/肺経):手首の内側、親指側。肺の気を養う代表穴。秋支度の要。
- 肺兪(はいゆ/膀胱経):背中の上部、背骨の両脇。背中から肺を養い、皮膚を守る。
- 太渓(たいけい/腎経):内くるぶしとアキレス腱の間。腎の潤いを養い、肺の潤いを下から支える。
これらは「立秋だからこのツボ」という決まった処方ではありません。脉やお腹の状態、夏の疲れの残り方、のどや肌の乾きのきざし、寒暖差での不調まで合わせて、補う・温める・潤す・収めるの重点を、その方の今に合わせて変えていきます。とりわけお灸は、夏の冷房や冷たい飲食で冷えた脾胃を温めるのに向いています。肺は水の上の源、腎は水の下の源とされ、この二つを養って潤いを支えることが、これから来る乾燥への備えになります。「不調になる前に整える」という脉診流経絡治療の考え方は、まさに秋支度の養生と重なります。
白い食材と、秋支度の暮らし
日々の養生は、暮らしのなかで少しずつ始められます。夏の夜更かしを引きずらず、睡眠のリズムを戻して早寝早起きへ。冷たい飲食を減らし、温かい汁物や消化のよいもの、発酵食品で、夏に冷えた脾胃を立て直すこと。入浴で身体を温め、副交感神経が優位になる時間をつくること。朝夕の涼しさで冷やさないよう、脱ぎ着しやすい羽織ものを一枚。昼夜の寒暖差で自律神経が揺れやすい時期なので、その乱れが気になる方は自律神経の乱れと鍼灸も参考になります。
そして、秋支度の食卓には「白い食材」を。東洋医学で肺に対応する色は白で、梨、白きくらげ、れんこん、百合根、白ごま、山芋、豆腐などが、肺を潤すとされてきました。梨は昔から「肺を潤す」果物として親しまれています。辛いものは摂りすぎると乾燥を強めるので、潤いのある食材と組み合わせて。まだ暑い残暑のなかにも、こうして少しずつ秋の潤いを蓄えていくことが、乾燥の季節を軽やかに越える下ごしらえになります。
夏の疲れを秋に持ち越さず、来る乾燥にそなえて。季節の変わり目を、身体を整えるきっかけにしてみてください。ご相談・ご予約は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院まで、LINEまたはお電話でお気軽にどうぞ。