最近、なんでもない段差でつまずく。椅子から立ち上がるとき、つい手をつく。歩くのが遅くなり、太ももやふくらはぎが細くなってきた気がする——。こうした足腰の衰えは、サルコペニアと呼ばれる、加齢による筋肉の減少のサインかもしれません。足立区梅島・はりきゅうはれ梅島院にも、ご自身の予防にと来られる方、あるいは親御さんの足腰を心配して相談される方がいらっしゃいます。この記事では、サルコペニアとは何かを整理し、東洋医学の視点と、鍼灸でできることをお伝えします。

はじめにお伝えしたいのは、足腰の衰えは「歳だから仕方ない」と諦めるものではない、ということです。40代・50代からの心がけで、その進みはゆるやかにできます。

最近つまずく、立ち上がりがつらい ─ サルコペニアとは

サルコペニアとは、加齢などによって骨格筋の量が減り、筋力(握力など)や身体機能(歩く速さなど)が低下した状態を指します。ギリシャ語で「筋肉」と「減少」を組み合わせた言葉です。加齢で心身が弱った「フレイル」の、身体面での中核にあたります。

筋肉量は20代をピークに、加齢とともに、つくられにくく分解されやすくなっていきます。とくに太もも・ふくらはぎ・お尻といった下半身の筋肉は落ちやすく、立ち座りや歩行、そして転倒の予防に直結します。ふくらはぎを両手の親指と人差し指で囲んで、すきまができるようなら筋肉量が減りぎみ、という簡単な目安もあります。だからこそ、40代・50代のうちからの備えが効いてきます。

まず大切なのは、運動と栄養 ─ 予防の土台

サルコペニアの予防で、何より大切なのは運動と栄養です。ここははっきりお伝えしておきたいところで、鍼灸はこの二つを置き換えるものではありません。

運動の柱は、筋肉に負荷をかける運動です。スクワット、椅子からの立ち座り、かかとの上げ下げ、もも上げなどを、無理のない範囲で週に2〜3回。あわせて、ウォーキングや片足立ちのようなバランスの運動が、転倒予防に役立ちます。栄養の柱は、たんぱく質です。肉・魚・卵・大豆製品などを、朝・昼・晩の三食に分けてとること。加えてビタミンD(魚やきのこ、適度な日光浴)も筋肉を支えます。食が細くエネルギーが足りないと、筋肉は保てません。この運動と栄養という土台があってはじめて、足腰は守られます。鍼灸にできるのは、この土台を続けやすい身体を整えること——後ほどお話しします。

東洋医学では ─ 脾は肌肉を主り、腎は骨を主る

東洋医学は、足腰の衰えを二つの臓の働きから読みます。この二つが、現代医学のいう「栄養」と「加齢」に、きれいに対応します。

一つめが「脾(ひ)」です。東洋医学では「脾は肌肉(きにく)を主る」——脾胃が食べたものから気血をつくり、その気血が筋肉や手足を養う、とされます。脾胃が弱ると、気血がつくれず、身体が痩せる、手足に力が入らない、疲れやすい、食が細い、といったことが起こります。高齢になって食が細り、消化する力も落ち、気血がつくれずに筋肉が痩せていく——現代医学でいう「低栄養による筋肉の減少」が、この脾の身体観にそのまま重なります。食から気血をつくるこの力は、生まれたあとに身体を支える「後天の本」とも呼ばれます。長く疲れが抜けない気血の不足については、寝ても疲れがとれない慢性疲労と鍼灸でも扱っています。

二つめが「腎(じん)」です。「腎は骨を主る」「腰は腎の府」とされ、腎は成長・生殖・老化を司り、骨や足腰、下半身の力の源です。加齢で腎が衰えると(腎虚)、足腰が弱る、腰や膝がだるい、つまずく、耳鳴りがする、といった老化のサインが現れます。腎の力は、生まれ持った生命力である「先天の本」。女性ではこの腎の移り変わりを女性の7年周期として、更年期以降の変化を更年期障害と鍼灸として扱ってきました。サルコペニアの「足腰の衰え・老化」は、まさにこの腎の側から読むことができます。

脾腎の衰えと、冷え・痛みで動けない身体

足腰の衰えの中心にあるのは、この脾と腎が両方とも弱った状態です。食が細く力が入らない(脾の弱り)に、腰や膝のだるさ・足腰の衰え(腎の弱り)が重なる。栄養をつくる力と、老化に抗う力の、両方が細っていく姿です。

さらに、ここに冷えと痛みが絡みます。筋肉は血の巡りで養われるため、冷えて巡りが落ちると、筋の状態にも影響します。冷えが気になる方は冷え性と鍼灸もご覧ください。そして見落とせないのが、痛みの問題です。膝や腰が痛むと動くのがおっくうになり、動かないから筋肉がさらに落ち、いっそう動きにくくなる——この悪循環が、足腰の衰えを加速させます。膝痛・変形性膝関節症と鍼灸腰痛と鍼灸で扱う運動器の痛みのケアは、筋肉を保つことと、実は表裏一体なのです。

鍼灸とお灸でできること ─ 続けやすい身体の土台に

くり返しになりますが、足腰の衰えを防ぐ主役は、運動と栄養です。鍼灸はそれを置き換えるものではありません。鍼灸やお灸にできるのは、その運動と栄養を「続けられる身体」を整えることです。食が細くて栄養がとりにくい方の脾胃を支えて食欲や消化を助ける。膝や腰の痛みで動けない方の痛みを和らげて、運動を続けやすくする。冷えや巡りを整えて、身体を動かしやすくする——運動と栄養に並走する補助、という位置づけです。

東洋医学的な見立てから、この時期によく用いられる代表的な経穴を紹介します。

  • 足三里(あしさんり/胃経):膝の外側の下、指四本分。脾胃を補い、下肢を養う。「長寿のツボ」として古くからお灸に用いられる。
  • 脾兪(ひゆ/膀胱経):背中の下のほう、背骨の両脇。脾を養い、筋肉(肌肉)を支える。
  • 中脘(ちゅうかん/任脈):みぞおちとおへその中間。弱った胃を整え、食欲を支える。
  • 太渓(たいけい/腎経):内くるぶしとアキレス腱の間。腎を養う代表穴。足腰の衰え・老化の養生の要。
  • 腎兪(じんゆ/膀胱経):腰、背骨の両脇。腎を養い、足腰を下から支える。お灸との相性がよい。

これらは「サルコペニアにはこのツボ」という決まった処方ではありません。脉やお腹の状態、食欲や消化、足腰のだるさや冷え、痛み、疲れ方、年齢まで合わせて、脾が弱っているのか、腎が衰えているのか、冷えや痛みで動けずにいるのかを診分けながら、脾を補う・腎を労わる・冷えと痛みを整えるの重点を変えていきます。とりわけお灸は、脾胃を温め腎を労わる養生として、年齢を重ねた身体にも取り入れやすい方法です。適度に身体を動かせば巡りが保たれる——東洋医学の「流れる水は腐らない」という考え方は、現代医学の運動のすすめと、同じ方を向いています。

足腰を守る暮らし方

足腰は、使い、養い、労わることで支えられます。運動では、週に2〜3回のスクワットや立ち座り、かかと上げを、無理なく。歯磨きのあいだにかかとを上げる、といった「ついで運動」なら続けやすく、記録をつけたり家族と一緒にしたりするのも励みになります。食事では、たんぱく質を三食に分けてしっかりと。食が細い方は、一度に食べられなくても回数を分け、消化のよい温かいものから。足腰やお腹を冷やさないことも、巡りと筋肉のために大切です。そして、足三里や腎兪へのお灸を、日々の養生に取り入れるのもよいでしょう。

「最近つまずく」「立ち上がりがつらい」——そのサインを、足腰を見直すきっかけに。運動と栄養だけでは補いきれない足腰の不安には、身体の内側から支えるという選択肢もあります。ご相談・ご予約は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院まで、LINEまたはお電話でお気軽にどうぞ。