発疹や水疱はかさぶたになって治ったのに、その場所の痛みだけがいつまでも残っている——。帯状疱疹のあとに続くこうした痛みは、帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれます。足立区梅島・はりきゅうはれ梅島院にも、「鎮痛薬を飲んでも痛みが十分にひかない」「焼けるような、電気が走るような痛みがつらい」という方が来られます。この記事では、帯状疱疹とその後に残る痛みを現代医学と東洋医学の両面から整理し、鍼灸でできることをお伝えします。

はじめにお伝えしたいことがあります。発疹や水疱が出ている急性期は、皮膚科や内科での治療が最優先です。抗ウイルス薬は早く始めるほど効果が期待でき、その後に残る痛みを抑えることにもつながります。鍼灸はこの急性期治療に置き換わるものではなく、主治医の治療と並行しながら、とくに皮疹が治ったあとも残る痛みに向き合う補助ケアとして関わります。

ウイルスが目覚めるしくみ ─ 帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹の原因は、水痘帯状疱疹ウイルスです。子どものころにかかった水ぼうそうのウイルスが、治ったあとも神経の根もとに長くひそんでいて、加齢や疲労、ストレス、免疫の低下をきっかけに再び活動を始めます。目覚めたウイルスが神経を伝って皮膚に達し、身体の片側に帯状の発疹と水疱、そして強い痛みを起こします。これが帯状疱疹です。

発症は50歳を境に急に増え、80歳までにおよそ3人に1人が経験するとされます。皮疹が出る数日前から、ピリピリ・チクチクとした前ぶれの痛みが出ることもあります。皮疹そのものは多くが2〜4週間で治りますが、その後も90日以上痛みが続くものを帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼び、50歳以上では約2割の方に残ると言われます。PHNの痛みは、焼けるような感覚、電気が走るような感覚、そして衣服が触れるだけでも痛む過敏さ(アロディニア)が特徴で、鎮痛薬だけではなかなか取りきれないことが少なくありません。

50歳からの身体と、免疫の揺れ

なぜ、ひそんでいたウイルスは目を覚ますのでしょうか。鍵を握るのは免疫の力です。加齢に加えて、過労や強いストレス、睡眠不足が重なると免疫の働きが落ち、ウイルスを抑えこんでいた力がゆるみます。仕事や家事、介護などで疲れがたまっていた時期に発症した、と振り返る方は多くいらっしゃいます。

女性では、更年期の前後にエストロゲンが低下すると、免疫の働きや自律神経、睡眠が揺らぎやすくなり、発症の背景になることがあります。更年期の不調と重なって感じる方は更年期障害と鍼灸も参考になります。もっとも、帯状疱疹は男女を問わず50歳から増える不調です。慢性的な疲れやストレス、自律神経の乱れが背景にある点は共通で、自律神経の乱れと鍼灸や、疲労が引き金になりやすいことを扱った寝ても疲れがとれない慢性疲労と鍼灸の視点も、ご自身の身体を振り返る手がかりになります。

東洋医学が読む「正気の虚」と「気血の滞り」

東洋医学には、「正気存内、邪は干すべからず」という言葉があります。身体を守る正気(せいき)が充実していれば、邪(病の原因)は入りこめない、という考えです。この正気は、現代でいう免疫の力に近いものです。加齢や過労、ストレス、更年期の腎の力の衰えによって正気が不足したとき、ひそんでいたウイルスという邪が動き出す——東洋医学は帯状疱疹の発症を、このように読みます。

発症の仕方にもいくつかのパターンがあります。ストレスや怒りで気の巡りが滞り、それが熱を帯びて皮膚に溢れる「肝胆湿熱」。帯状疱疹が脇腹や側胸部に多いのは、この肝・胆の経絡が走る場所と重なるためです。一方、疲労や食の細りが先にあり、脾の弱りから湿と熱がたまるタイプもあります。

そして、痛みが長く残るPHNを東洋医学が読むときの中心が、「気滞血瘀(きたいけつお)」です。急性期にウイルスという邪が経絡を傷つけ、気血の流れが妨げられます。皮疹が治っても、その滞り(瘀血)が残ると、「通じなければ痛む(不通則痛)」のことばどおり、痛みが続きます。長引くほど滞りは固定し、取れにくくなります。だからこそ、滞った気血の巡りを取り戻すことが、PHNに向き合ううえで大切になるのです。

鍼灸でできることと、用いられる経穴

鍼灸が帯状疱疹そのものを治すわけではありません。急性期は医療機関の治療が主役です。鍼灸ができるのは、主治医の治療と並行しながら、滞った気血の巡りを整え、弱った正気を補い、とくに皮疹のあとに残る痛みをやわらげていくことです。PHNのような神経の痛みに対しては、鍼の刺激が、痛みを伝える神経の興奮を抑え、痛みを感じにくくする方向に働くことが研究されています。

東洋医学的な見立てから、帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛によく用いられる代表的な経穴を紹介します。

  • 夾脊穴(きょうせきけつ/奇穴):背骨の両脇に並ぶ経穴。痛みのある神経の領域に対応する高さを用い、PHNの局所の中心になる。
  • 阿是穴(あぜけつ):痛みやこわばりが強い、その場所そのもの。古くから痛みに用いられてきた。
  • 太衝(たいこう/肝経):足の甲、親指と人差し指の骨が交わる手前。肝の気の滞りや熱をさばく。
  • 血海(けっかい/脾経):膝の内側の上。血の巡りを整え、滞り(瘀血)を動かす。
  • 足三里(あしさんり/胃経):膝の外側の下、指四本分。脾胃を補い、正気(免疫の力)の土台を支える。

これらは「帯状疱疹にはこのツボ」という決まった処方ではありません。痛む場所と、その方の気血の虚実、発症のきっかけが肝の熱なのか脾の弱りなのか、冷えやストレスのかかり方まで合わせて読みながら組み立てます。痛みは背中から脇腹に出ることが多く、背中に残る痛みについては背中の痛みと鍼灸の背部兪穴の視点とも重なります。お腹や脉から全身を読む脉診流経絡治療は、「痛みの場所」と「身体全体の状態」を合わせて捉えるのに向いた関わり方です。

再発させない、痛みを長引かせないために

鍼灸と並行して、暮らしのなかでできることもあります。免疫の力を保つために、十分な睡眠と休息をとること。無理を重ねず、強いストレスをためこまないこと。バランスのよい食事を心がけること。PHNの痛みは冷えで強まりやすいので、患部を冷やさず、入浴などで温めることも助けになります。なお、50歳以上の方には帯状疱疹の予防接種という選択肢もありますので、接種については主治医にご相談ください。

皮疹は治ったのに痛みだけが残り、薬を飲んでも晴れない——そんな日々を「もう仕方がない」と諦める前に、痛みを身体全体の巡りから読み直すという選択肢があります。ご相談・ご予約は、足立区梅島・梅島駅より徒歩7分のはりきゅうはれ梅島院まで、LINEまたはお電話でお気軽にどうぞ。